求人票を整え、見学に来てもらい、面接をして、ようやく採用できた。
しかし3か月で辞められてしまえば、すべて振り出しに戻ります。 かけた時間も、教育にあてた現場の労力も戻ってきません。そして残った職員の負担が増え、次の離職につながることさえあります。
採用の本当のゴールは、入職ではなく定着です。この記事では、入職後の受け入れをどう設計するかを整理します。
辞める理由の多くは、受け入れ方にあります
まず、公的な調査データを見てください。
令和6年度「介護労働実態調査」(介護労働安定センター)によると、直前の介護関係の仕事を辞めた理由の第1位は「職場の人間関係に問題があったため」で24.7%でした。
さらに踏み込んだ数字があります。この「人間関係に問題があった」と答えた人のうち、その具体的な内容は、「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」が49.1%にのぼります。
つまり、辞めた理由のかなりの部分が、入職後の指導や関わり方そのものにあるということです。
賃金や労働時間の問題であれば、すぐには変えられません。しかし受け入れ方は、明日から変えられます。
なお同じ調査で、職場定着に最も効果があった方策は「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」(34.4%)でした。制度そのものより、使いやすさが効くということです。
面談を「決め事」にする
タイミングを固定する
入職後のフォローは、あらかじめ日程を決めておいてください。
- 3日目
- 1週間
- 1か月
- 3か月
- 6か月
- 1年
この6回です。入職が決まった時点でカレンダーに入れてしまいます。
「困っていそうなら声をかけよう」では実行されません。現場は忙しく、目の前の業務が優先されます。そして気づいたときには、本人の中で結論が出ています。
決め事にすることには、もう1つ意味があります。本人にとって、「次に話せる日が決まっている」という状態は、それ自体が安心材料になります。困ったことがあっても、そこまで持ちこたえられます。
それぞれの時期に、何が起きているか
| 時期 | 起きていること | 聞くこと |
|---|---|---|
| 3日目 | 職場の空気に慣れない。「間違えたかも」が芽生える時期 | 困っていることはないか。設備や休憩の場所は分かるか |
| 1週間 | 仕事の流れが見え始める。分からないことが溜まる | 質問できる相手はいるか。聞きにくいことはないか |
| 1か月 | できないことへの焦り。人間関係の輪郭が見えてくる | できるようになったこと、まだ不安なこと |
| 3か月 | 試用期間の節目。理想と現実のギャップが確定する | 入職前に聞いていた話とのずれはないか |
| 6か月 | 慣れによる中だるみ。役割が変わり始める | 今の業務量は適切か。任されたいことはあるか |
| 1年 | この職場を続けるかを考え始める | 今後どうなりたいか。そのために何が必要か |
最初の3日目を軽く見ないでください。この時期の「思っていたのと違う」は、まだ言葉にすれば解消できます。1か月経つと、本人の中で確信に変わっています。
面談を評価の場にしない
面接の記事でも書きましたが、面談が評価の場になると本音は出てきません。
「どうですか、慣れましたか」と聞かれて「大変です」と答えられる人は多くありません。評価に響くと思えばなおさらです。
聞き方を変えてください。
- ✗ 慣れましたか
- ○ 今いちばん困っているのは、どんなことですか
前者には「はい」としか答えられません。後者は、困りごとがある前提で聞いているので答えやすくなります。
誰が面談するかを、固定しない
直属の上司だけが面談相手だと、言えないことがあります。 人間関係の悩みは、たいてい直属の相手に関することだからです。
3日目と1週間は現場の責任者、1か月と3か月は管理者や事務長、というようにラインを分けてください。 話す相手が変われば、出てくる話も変わります。
そして面談の内容は簡単に記録し、引き継いでください。 担当が変わったときに一から聞き直すのは、本人にとって負担です。
相手によって、フォローを変える
ここが最も大切な部分です。同じ受け入れ方を全員に当てはめないでください。
未経験・新人の場合|放置しない
未経験者にとって最大の不安は、「聞いていいのか分からない」ということです。忙しそうな先輩に声をかけられず、分からないまま時間が過ぎていきます。
だから、ついてまわる期間を明確に設けてください。
- 「最初の◯週間は、◯◯さんと一緒に動きます」と本人に伝える
- 同行する職員を決めておく(その日の空いている人、にしない)
- 一人で動かせる時間を、意図的に作らない
そして独り立ちは、業務単位で順番に進めます。
「もう1か月経ったから一人でやって」ではありません。できるようになった業務から、1つずつ手を離していきます。
このとき、業務のリストを作って本人にも見せてください。
□ 申し送りの受け方 → 済(2週目)
□ 記録の入力 → 済(2週目)
□ 食事介助 → 済(3週目)
□ 入浴介助 → 同行中
□ 夜勤帯の対応 → 未
効果は2つあります。どこまでできるようになったかが本人に見えること、そしてまだできないことがあっても当然だと分かることです。
未経験者の焦りは、多くの場合「自分だけができていない気がする」という思い込みから来ます。可視化すると、その思い込みが消えます。
経験者・ベテランの場合|任せて、確認だけする
ベテランに未経験者と同じ受け入れをすると、逆効果になります。
長年やってきた人にとって、手順を一から説明されるのは苦痛です。「自分の経験は評価されていない」と感じさせてしまいます。
進め方は次のとおりです。
最初だけ、後ろについてもらう。 目的は技術を教えることではなく、この施設のやり方を見てもらうことです。
覚えてもらうのは「施設のお約束」だけ。 記録の書き方、申し送りの形式、備品の場所、報告のルール——施設ごとに違い、かつ知らないと困ることに絞ります。介護技術や看護技術そのものは、すでに持っています。
その後はすぐ自分でやってもらい、こちらは確認だけ。 見守る時間を長く取る必要はありません。
そして、ここが肝心です。
指導者のやり方と多少違っても、結果が同じであれば許容してください。
長い経験のある人には、その人なりの手順があります。それを「うちのやり方はこうです」と細部まで正されると、自分のやってきたことを否定されたと感じます。
安全性に関わること、記録として残すべきこと、施設として揃えなければならないことは、もちろん統一が必要です。しかしそれ以外の進め方の違いは、結果が同じなら受け入れてください。
尊重されたという感覚が、「受け入れられた」という実感になります。 そしてそれが、その人が残るかどうかを分けます。
経験はあるが、分野が違う場合
病院から介護施設へ、あるいは別の業態から移ってきた人は、この2つの中間です。
- 職種としての技術 → 持っている前提で接する
- その分野特有のやり方 → 未経験者と同じように、順番に
「経験者だから分かるはず」と扱われるのが、この層にとって最もつらい状況です。何を知っていて、何を知らないかを本人に確認してから、フォローの仕方を決めてください。
半年後、経験者からアイデアを引き出す
経験者を迎えたときに、ぜひやっていただきたいことがあります。
入職から半年ほど経ったところで、「こうするともっと良くなると思うこと」をこちらから聞いてください。
向こうからは、まず言いません
経験のある人ほど、気づいたことを自分からは口にしません。理由は遠慮です。
- 新参者が口を出していると思われたくない
- 「前の職場ではこうでした」は嫌がられると知っている
- 今のやり方には、それなりの事情があるのだろうと考える
つまり、言いたいことはあるけれど、飲み込んでいる状態です。放っておけば、そのまま何も出てきません。
だから、こちらから聞く必要があります。
聞き方
改まった場を用意しなくて構いません。半年の面談のときに、こう聞いてください。
- 前の職場と比べて、うちのやり方で気になるところはありますか
- もっとこうしたらいいのに、と思うことはありますか
- 逆に、うちのほうが良いと感じるところはどこですか
3つ目を入れるのがコツです。批判だけを求められていると感じさせないためです。
その場で出てこなくても構いません。「思いついたらいつでも言ってください」と伝えておけば、後から出てきます。聞かれたという事実が残ることに意味があります。
なぜ半年なのか
タイミングには理由があります。
早すぎると、全体が見えていません。 3か月では、まだ目の前の業務を覚えるので精一杯です。
遅すぎると、違和感が消えます。 1年も経つと、自施設のやり方が当たり前になります。最初は「なぜこんな手順なのだろう」と思っていたことも、いつのまにか疑問に感じなくなります。
つまり、自施設のやり方に染まる前の、外の目が残っている期間——それが半年前後です。この窓は、思っているより短く、そして一度閉じると二度と開きません。
2つのメリットがあります
1つ目は、本人にとってのメリットです。
意見を求められるということは、戦力として認められたということです。指示を受ける側から、一緒に考える側になった。この変化は、受け入れられたという実感に直結します。
やり方を尊重されること以上に、意見を求められることのほうが強く効きます。
2つ目は、施設にとってのメリットです。
内部にいる人間には、自施設の課題は見えません。毎日そこにあるものは、当たり前になって意識に上らなくなるからです。これは自施設の魅力を見つけるときとまったく同じ構造で、魅力が見えないのと同じ理由で、改善点も見えません。
外から来た人の目は、その両方を見つけられます。採用は、人手が増えるだけでなく、施設が成長する機会でもあります。
取り入れるときの注意
聞いたあとの扱い方が大切です。
小さくてもいいので、1つは実際に変えてください。 何も変わらなければ、次からは言ってもらえなくなります。「言っても無駄だ」という学習は一度で成立します。
取り入れられないものは、理由を伝えてください。 「検討します」で止めるのが最もよくありません。人員体制の都合、法令上の制約、過去に試して問題があった——理由が分かれば納得できます。
変えたときは、誰の提案かを共有してください。 「◯◯さんの意見で、申し送りの方法を変えました」と伝えるだけで、その人の居場所ができます。周囲の職員にとっても、意見を出していい職場だという合図になります。
採用時に伝えたことと、ずれていないか
最後に、定着の前提となる話をします。
入職後のギャップは、入職後には作られません。採用の段階で作られています。
見学や面接で、良いところしか伝えていなかった。忙しさを見せなかった。条件を曖昧にしたまま入職してもらった——そうであれば、どれだけ丁寧に受け入れても「話が違う」は起きます。
見学の記事で書いたとおり、ネガティブな情報こそ先に伝えるべきです。そして面接の記事で書いたとおり、条件は書面で渡してください。
3か月面談で「入職前に聞いていた話とのずれはないか」を聞くことにしているのは、このためです。ずれが見つかったら、それは次の採用で伝えるべきことです。定着の取り組みは、採用の改善にそのまま返ってきます。
まとめ
- 辞める理由の多くは受け入れ方にある — 人間関係が離職理由の1位、その約半数が指導や言動に関するもの
- 面談は決め事にする — 3日・1週間・1か月・3か月・6か月・1年。入職時にカレンダーへ
- 「慣れましたか」と聞かない — 「今いちばん困っているのは何ですか」に変える
- 面談相手のラインを分ける — 直属だけでは言えないことがある
- 未経験者は放置しない — ついてまわる期間を設け、業務単位で順番に独り立ち。リストで可視化する
- ベテランは任せて確認だけ — 覚えてもらうのは施設のお約束のみ。やり方が違っても結果が同じなら許容する
- 半年後、経験者からアイデアを引き出す — 遠慮して言わない。染まる前の外の目は、半年で閉じる
- ギャップは採用段階で作られる — 見学と面接で隠さなかったかを振り返る
定着の取り組みは、地味で時間がかかります。しかし採用にかかる費用と労力を考えれば、辞めない仕組みを作るほうがはるかに安上がりです。
まずは次に入職する方から、6回の面談をカレンダーに入れてみてください。それだけでも、見えるものが変わります。
Sources